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初花
第4章 猫柳
その夜、まだ僅か 常日頃より
熱いような身体ではあったが
龍は よく眠っていた。


私は、隣に添い
肘をついて 寝顔を見ていた。

そっと 前髪をはらってやりながら
額をなでると
ちいさく 身じろいで、この胸に
すり寄るような仕草を見せた龍の

ほんのすこしの、そのうごきが
なんと胸を満たしたことか…

咳のおさまった 穏やかな寝息に
私も 眠りに誘われた。





だが、、 その翌日。


ある姿絵を 私は目にした。

他人の耳のないところで
お話しさせて戴きたく、などと
ひとりの家臣が 近付いてきて

このところ流行りの絵師が
手掛けたという 美人絵のなかの
一枚を 差し出してきた。


「まさかとは 思うのですが…」
言葉を濁す その者から受け取ると
指差された隅には
極薄く 喪恋 と書かれていた。

牡丹の打ち掛けを纏った
美しい姿は まさに龍であった。


手にはあの時とおなじ風車。
そして、いまだに見たことのない
此方を見つめる様な 瞳の甘さ…


絵師は おそらく
風車をもつ龍と並んで
市を歩いていた、あの男であろう。




一瞬の胸の痛みと ともに、
出逢ってから此の方
微かな笑みを見せたことも
数度しかない彼を思う。

私は龍の笑い声を
まだ知らない。






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