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作品集
第18章 平成28年10月1日
素晴らしいと思いました。

◆今や、礼儀を、古いとか、形だけのものとして蔑視(べっし)する傾向があります。

「何の得にもならない」と、利益に換算する人もいれば、「こんな忙しい世の中、礼儀などに構っていられない」と言う人もいます。中には、無礼であることが、むしろ現代的だと錯覚している人もいます。

そして、多くの若い人は、礼儀を教えられずに育っていますが、それは彼らにとって大きな損失です。
なぜなら、
「美しさ」というものが、永遠に変わらない、
そして人々が追い求める
一つの価値だとすれば、
その美しさを創るもの、
生み出すものは、礼儀という名のもとに実行される、小さいことの積み重ねだからです。それは、なぜそうするのかと問われても答えられないような「きまり」を、来る日も来る日も、
繰り返して自分に課していった結果、いつしか生まれてくるものなのです。
幼い時、
母は私たちに向かって
「膝(ひざ)を揃(そろ)えなさい。膝と膝の間を開けて座るものではありません。宮様方は、何時間でもそうしていらっしゃいます」と言ったものでした。
宮様ではあるまいし、と心の中で反撥(はんぱつ)しながら、渋々膝小僧を揃えたものです。
食べ物を口に入れたまま話したり、歩いたりすることはもちろん禁じられ、食後すぐ寝そべることは
「牛になる」ことであったし、床の間に足であがること、敷居や畳のへりをふむことは「足が曲がります」という極めて非科学的な
理由で禁じられていました。
ふすまや障子(しょうじ)をきっちり閉めない時にも、叱言(こごと)は容赦なく飛んで来たものです。
今になって思えば、これらの「理由なきしつけ」は、結局、自分との闘いであり、自分をきたえる手だてだったのです。
《「美しさ」は、修業を必要とする》
「美しさ」というものは、礼儀という小さな
「きまり」ごとの積み重ね。
自分との闘いの所産。

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