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作品集
第2章 平成27年5月…
素晴らしいメールを紹介します…


◆司馬遼太郎 著 の
「新史 太閤記(上)」


豊臣秀吉さんがまだ信長さんに仕える前、松下屋敷で奉公していた時のお話です。
他の奉公人が冬など、大火鉢で暖をとっていると、
「御免」と猿(秀吉)は大鉢でその炭火を覆い、消してしまう。
また日が暮れると、無用の燈火を消してまわった。
納屋(なや)で小者が夜なべ仕事の縄をなっていてもこの点は同様で、ずけりと消してしまう。
「夜なべをしているのではないか」
小者がいきり立っても、猿は平気だった。
「朝、早く起きてやればよい。燈油はぜにが要るが、天道はただじゃ」
厭やな男だった。
しかもそういう自分の行動の原理を、しばしば朋輩にいう。
「われら奉公人は、旦那に得をさせるためにある。旦那にはいちずに儲けさせよ」(中略)
「使われているのではなく、一個の独立した人間として自覚をもち、奉公というものを請け負っている。
されば松下屋敷の経費は出来るだけ締め、主人
嘉兵衛に得をさせるのが自分の器量であり、誇りである」「奉公人は主人の手足である」とこの尾張人は言い、そのおそろしく鋭敏な感覚をもって絶えず嘉兵衛の表情を観察し、その要求を察し、たとえば嘉兵衛がぐずりと鼻の奥を鳴らせばすかさず鼻紙を差し出した。「気が利くの」と嘉兵衛も最初は気味がわるかったが、だんだん慣れてしまい、ついには猿が身近に居らぬと身動きもできぬ焦燥を感ずるようになった。

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