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よくある恋愛モノ
第4章 嵐に呑まれて
「川本」
「はい」
「最近大丈夫か? 少したるんでるぞ」
「はい……」
美和は唇を噛む。
「何かあったら言えよ」
「はい……大丈夫です……」
“言えない−−−”
優しい美和は、人に迷惑をかけてはいけない、自分で解決しなければ、と思いを胸の奥にしまい込んでしまう癖があった。
“どうしよう……”
美和は職員室から出てため息をつく。
「美和さん?」
「あ、森継さん……」
部活だったのだろうか、星来が踊り場から美和を見下ろしている。
「大丈夫? どうかしたの?」
「ん、ちょっと……教室の鍵なくしちゃったみたいで……」
「え、うそ……美和さんが?」
星来はここぞとばかりに驚いた顔をしてみせる。
「いろんなとこ探したんだけど、見つからないんだよね……」
「そう……あ、5階の物理室は? 一限化学室なのにみんな間違えちゃったから」
「そうかも……ありがとう」
「頑張ってね!」
そういって美和を見送る星来の手には、もちろん鍵が握られていた−−−。
“バカな子”
星来のそんな面に全く気がつかない美和は、5階へと足を運んだ。
「ない……」
物理室に夕日が射し、今日最後のチャイムが鳴る。