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よくある恋愛モノ
第9章 不安
美和は俯いてそう呟いた
凪には美和の表情は見えないが、声の震えから自分のした事の大きさが分かる
“もう…無理だな……”
「わるぃ……」
凪は小さくそう言うと、エレベーターのドアを開け、放心状態の寅の横を通り抜けていった
“俺は何を考えてた!? “奪う”なんて……”
美和の震える声を思い出す
完全に拒絶するような、あの声−−−
“俺は馬鹿か”
何故美和の気持ちを考えなかった
何故幼い頃の記憶を重ねた
何故今の美和を見てやらなかった
“いつまでも…ガキなんだな……”
凪が出ていき、三度エレベーターのドアが閉まる
このままではいつまた外から開けられるか分からない
美和はしゃがみこみ、散らばった荷物を拾い始めた
“なんでよ……”
美和の手が止まる
“どうして待ってくれないの?”
無理やり自分のものにすればそれで満足なのか
“どうしていつもそう自分勝手なの!”
美和は再び荷物を拾いながら、必死で涙をこらえた
初めてのキスは、いやがおうにも美和の胸を昂ぶらせ−−−
“これじゃほんとに好きなのか…もっとわかんなくなったよ……”
このままこの気持ちは封印しよう
美和の中には、そんな思いが芽生え始めていた−−−