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白日夢の断片【超短篇集】
第14章 羽衣伝説 〜天女side story〜
おぉぉぉぉぉ……!!!!!
目にした途端、膝から崩れ落ちた
つ、ついに……
ついに……見つ、けた……
これでようやく、天界に帰れる……
美しく穢れなき世界から
汚れて荒んだ世界へと引き摺り込まれ……
身体を玩ばれる
凌辱の日々……
嬰児(ややこ)まで身籠り
この世界に縛り付けられた……
褥で眠る男にそっと近付く……
乾燥して、ひび割れた唇
あれが私の唇を塞ぎ
白くてザラザラした膿のある、悪臭が酷い舌
あれが私の身体を舐め回し
ゴツゴツして骨張った脂分の全くない指
あれが私の身体を這い回り
寝乱れて麻の着物から露わになったふやけた肉棒
あれが先程まで私の中心を穿き
肉欲のままに犯され続けた……
脳裏に悍(おぞ)ましい映像が蘇り
全身に鳥肌が立ち、目眩に襲われる
長い年月は
私も変えてしまった……
艶のあった黒髪は
強い日に晒されて乾燥して輝きを失い
瑞々しかった柔らかい手は
水仕事で赤切れて血が滲み
玉のような肌は
草臥(くたび)れて、色褪せ
歌って笑って過ごした天界での夢のような日々
もう……
笑い方も忘れてしまった
呑気に鼾(いびき)をたてて眠る男……
憎悪の念が奥底から炎のように舞い上がる
今こそ……
積年の恨み
晴らして見せる……!!!
包丁を手に
男の喉元に切りつけようとした刹那
視界の端に
穏やかに眠る嬰児の姿
出来ぬ……
憎い男
それでも
愛しい……我が子の父親
「身勝手なお母を許しておくれ……」
羽衣の無い者は
天界に連れてはゆけぬ
眠る嬰児の柔らかな頬に唇を寄せると
零れ落ちる玉のような涙
二度とは戻らぬ……
どうか、達者で……
達者で暮らせ……