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第1章 1

伊豆倉あやみ（いずくらあやみ）がアラサーという言葉を図々しくも使っていたのは去年までだ。
流石に３５歳になるとその言葉は使えない。

だったらさっさとアラフォーに鞍替えすればいい話だが、それは絶対に嫌だった。

きっと彼女は４1歳から４４歳までアラフォーを自称することになる。

あやみだってわかってる。
自称をどんなに飾ったところで周りの男性が『行き遅れ』とか『お局様』だと思ってることくらい。

いつかは結婚できると根拠もなく思い込んでいた彼女が、深刻に婚期について焦り始めたのは先月のことだった。

会社の先輩、井筒佳代（いづつかよ）が結婚すると聞いたことがきっかけだ。

井筒は優しくて面倒見もいいが、残念なことにルックスがあまりにイケてなかった。

そんな二歳先輩の井筒が独身でいてくれるということは、あやみの中で理由もなしに安心できることだった。
しかし先月、ついにその最後の防波堤が決壊してしまったのだ。