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sunset~君の光になりたい
第11章 切ない黄金色

そんな経緯があって、彼と動物園デートなのだ。
(デート……なのかな?)
急に緊張して来た。掌に汗が滲む。ハンカチを握り締め、気を逃す様に駅を行き来する沢山の人を眺めた。
今日は休日でお天気もよく、動物園が近くのこの駅はカップルや家族連れで賑わっている。
三歳くらいの男の子がはしゃいで走ってきたが、つまづいて転んでしまい泣き出した。
声をかけようと立ち上がると、母親らしい女性が男の子に駆け寄ってきた。
「大丈夫よ、ほら、いたいの、いたいの飛んでいけ!」
母親が男の子の膝に手を当ててみせる。男の子はまだひくひくしていたが、泣き止みぱあっと顔を輝かせて立ち上がった。
「しゅん、えらいぞ!強いな!」
父親らしき男性が、ニコニコ笑い男の子の頭を撫でた。
「さあ行こうか!フクロウさんとかアルパカさんと沢山写真撮ろうな!」
親子三人は手を繋いで笑い合いながら歩いていく。
そんな光景を見ながら、不意に頭痛に襲われた。
こめかみを押さえ目を閉じる。
頭の中にセピア色の、昔の場面が蘇った。
(――嫌だ。見たくない。思い出したくない)
そう思うのに、頭の中で勝手に映像が進行していく。
何歳の頃だろう。
母親の背中を追いかけて追いかけて。
胸が苦しくて、涙が溢れて
「お母さん」
と何度も叫ぼうとしたけれど、声が出なくて。
イチョウが色づく並木道を母は私に背を向け歩いて行った。
転んでしまった私を一度も振り返りもせずに。
ハラハラと舞うイチョウが美しくて、私は母の背中が小さくなり見えなくなってもイチョウを眺めていた――
「……さん……」
千波は、無意識に呟いていた。

