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星と僕たちのあいだに
第6章 猫

『はぁ、はぁ、
大丈夫、ありがと……
はぁ、はぁ……』
『ほら、ここ、すわれ。
ちょっと待ってろ』
近くにあった自販機は飲料水が売り切れていて、仕方なくスポーツドリンクを買って戻ると、それで早苗にうがいをさせた。
『うがいだけだぞ。
スポーツドリンクだから、
飲んじまうと二日酔いひどくなる』
口をゆすぎながら涙目でうなずく早苗の鼻の頭は、冷えた空気で赤くなっている。
ボトルを口にやるたび、痛々しく腫れた左の頬がふくらむのを目のあたりにして、ひどくやるせない気持ちが圭司にまといついた。
よくも女を殴れるものだ、と圭司は、女を殴る男の分別のなさや、動機の稚拙さを同じ男として情けなく思った。
早苗の美貌、性的な誘引力が、磁石のように早苗が望まないものまで引き寄せ、その中には女に手をあげるバカも混ざってしまうのだろう。
どうにか立ち上がった早苗は、首をのけぞって胸元の火照りを冷気で洗い、ふぅーっと白い息を吐いた。
足のゆがんだ蜀台(しょくだい)のように頼りなくかたむいて、見上げた街路灯に目を細める早苗の横顔には、破壊されつくした戦場の街と同じ種類の物悲しい静けさがあった。
その姿を圭司は黙って見ていたが、ちくちくと刺されるような痛みを胸におぼえた。
早苗が不憫でならない。
何かしらのトラブルで早苗がうけた痛みをいったん自分の身に引き寄せ、まずは掛け値なしになぐさめてやろう。
身内びいきであったとしても、それがどうした。
今、そばにいるのは自分なのだ。

