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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
天気のいい日、ときどき圭司は草の匂いをかぎたくなって、大きなおなかを抱えた早苗の手をとり、木漏れ陽に覆われた海浜公園の遊歩道をぼちぼちと歩く。
すり鉢の尾根づたいに並ぶベンチに腰を下ろし、早苗とふたりで芝生広場を見おろすと、あの日以来一度も顔を見ない麻衣のことを話しだすのは、きまって早苗のほうからである。
『ここに来るといつも、
麻衣ちゃんを探してしまうわ。
あの子、
元気にやってるのかしら』
美しい妻のひとりごとのような問いかけに、圭司はうんざりともせず微笑んで、
『さぁどうだろうな』
と、いつも同じ返事をする。
葉桜のあわいから散り落ちる木漏れ陽を浴び、遠くに海鳴りを聴く。
潮風に撫でられて早苗の髪がほつれた。
ポニーテールにまとめ直す早苗の頬に不意打ちのキスをして、圭司は、なだらかにふくらんだ妻の腹にそっと手をあてる。
たしかな息吹き。
新しい命のありかを妻の内部に感じる歓びは、
昔の恋人が去っていった理由を、手のひらにそっと教えてくれる。
星と僕たちのあいだに
おしまい