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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『女としての能力が私にはありません。
それを相手の方が構わないと言っても、
その言葉は私みたいな女には
なぐさめにしかならないんです。
粗悪品なんです。
ワゴンに盛られた不良品です。
こんな私で良かったらどうぞって、
そういうふうにしか自分でも思えない。
そうやってひがんでみても、
見える世界は何も変わりません。
直樹クンを抱っこしてると、思うんです。
ああ、幸せだなって。
こんな幸せを好きな人に授けられない私は、
やっぱり誰とも結婚しちゃいけないんです。
だから、いつかは、
いまおつきあいしている方のところから
離れなきゃいけないと思ってます』
ダイニングの照明の下で己を卑下する麻衣を、滝沢はじっと見つめた。
しおれた花のように、こころもち首をかしげてうつむく麻衣が切なくて、歩み寄って抱きしめたくなった。
その衝動を抑えるのに奥歯を噛む滝沢は、いっそう精悍な面持ちで麻衣に視線をあてた。
『直樹クンを抱いたとき、
この子が欲しいと思いました。
滝沢さんが好きだって言ってくれたとき、
ほんとに嬉しかったです。
でもその嬉しさが
どこから湧いてくるのか自分にただせば、
私のずるい自己満足からなんです。
直樹クンを得る代償として、
滝沢さんを愛そうとしてるかもしれない。
そんなことを考えた自分が怖いんです』
そこまで言うと、麻衣は苦しそうに眉間にしわを寄せ、固く口を閉じた。
¨怖いと思ったのは、本当に滝沢さんを好きになってしまったから¨
そう言おうとして、ためらった。
証明しようにも、自分をとりまくすべての状況が、その言葉とは矛盾しているからだった。