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第15章 女体売却契約

「なに簡単なことだよ、君には全部で五百万の価値がある、ならばそれを全部渡せば良いだけではないか」

　枢機卿の好色な笑みに覗きこまれ、その意味する所を悟ったノエルは、自身のあられもない格好を思わず忘れるほど戦慄した。

（わたくしの全てを……渡すですって！　……そんなこと）

「むっ、無理です……それだけはお許し下さい」
「もちろん、もちろん。そんなことをしてしまってはせっかく恋人のためにひと肌脱いでいるというのに意味がないからねえ。わかるよ」

　意外にも枢機卿は理解を示す言葉を口にした。

「で、では……」
「切り売りすれば良いではないか」
「え……？」
「例えばだ、この美しい凝った下着。しかも脱ぎたて、滲みつき、匂いつきの三拍子揃った代物。これもまあ君の一部と言えるだろうね、マドモワーゼル」と、手に持ったままだったノエルのショーツを広げて見せる。

「嫌っ……およしになって……」

　自分の恥ずかしい肌着を目の前に広げられ、忘れていた羞恥が再びぶり返す。

「そう。そう言って取り返すのはもちろん君の自由だが、これに価値を定めて私に支払うという方法もある。と、そういうことを言っているのだよ。……そしてその合計が五百万となったとき、晴れて証文は君の手に渡される」

（そ……そんな！）

「どうかな？　私は今、これを買う気満々だがね……売って頂けないのではしかたあるまい」

　枢機卿がヒラヒラとショーツを宙に泳がせる。

（ど、どうすれば……そんなの嫌に決まっていますわ……で、でも）

　他にお五百万金もの大金を支払う方法などありはしない。

（た、ただの下着。布きれ……そう思えば良いのですわ……レモンドを救うためと思えばそれぐらい……）