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シミュレーション仮説 (旧作)
第7章 加藤信二。二十八歳。職業役者。
 この世界はシミュレーション世界だ。
 オレを中心に生まれた、仮想現実世界。

 オレが生まれた時に、この世界が作られた。
 オレを中心に世界が広がった。

 例えば、今朝駅前ですれ違った女子高生。
 彼女は『駅前に誰もいないとオレが不自然に思うから、そうさせないために、駅前でオレとすれ違うために作られた存在』だ。

 電車の車内でも、駅から家までの道でも、同じ理由で作られたたくさんの存在とすれ違う。

 全て、オレにこの世界がシミュレーションの中の世界だと気付かせないために。

 この世界のオレの行ったことのない土地、通ったことのない道、開けたことのない扉。
 そこはまだ作られていないのだ。

 オレがそこに着いた瞬間に、それらは作られる。
 今はそこにそれがある、という『設定』だけが存在しているにすぎない。

 何故なら、その設定がないと、オレが不自然に思うから。

 宇宙なんて、ない。
 そういう『設定』があるだけ。

 過去の歴史なんてものも、ない。
 この世界はオレが生まれた二十八年前に生まれたのだから。
 ただ大昔から続く、人類の歴史、という『設定』のみがある。

 しかしオレは、この世界がシミュレーター世界だと気付いた。
 こんな世界が作られた理由までは知らない。

 何かの研究か、どこかのマッドが面白半分に作ったか。

 どんな理由にしろ、オレはきっと監視されている。

 オレが役者として、最低限の生活が出来る程度には売れ、それ以上にならないのは、そうなることが、世界のプログラマーにとって都合が悪いのだろう。
 何だかんだで仕事が入ってきて、金に困らないのは、この世界を作った『神』の希望か、配慮か。

 つまり、オレは監視される代償に、生活と安全を『神』によって保障されていることになる。

 そして、そうやってオレのために作られた世界に生きる住人は、オレのために作られた存在だ。

 つまり、何をしてもいい。

 オレが世界の中心で、オレには『神』がついているのだから。
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