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シミュレーション仮説 (旧作)
第15章 シミュレーション世界の終焉
 異常気象が相次ぎ、巨大地震が発生し、人類が想定したこともないような大津波に襲われた。
 地球の動きをコントロール出来なくなってしまったせいで起こった現象だった。

 ある国では、突然道路が陥没するという事故が立て続けに起こった。

 通常なら、何かしらの予兆があって、結果があるものだ。
 なのに、何もなかった。

 道路にヒビが入る、等といった予兆は何もなく、いきなり大きな穴が開いたのだ。

 これも歪みのひとつの現われだった。

 圧迫されたコンピューターは、リアルタイムに現象を反映することが出来なくなっていた。
 ヒビが入る、といったような「予兆」が即座に反映されず、タイムラグが生じ、陥没という「結果」とほぼ同時に反映された。

 大きな原因としては、地下に埋め込まれた水道管の老朽化がそれにあたるが、そこに住む人々には、いきなり大きな穴が開いた、というようにしか見えなかっただろう。

 判りやすい例えで言えば、目の前に料理があり、食べるという「過程」を瞬時に通り越して、いきなり皿の上の料理が消え、なぜか満腹になっている、という現象の反映のされ方だった。


 シミュレーター世界は、この問題が解決されるまで凍結されることとなった。

 再開がいつになるのかは判らない。

 強烈な性欲に支配された少女は、男の体が重なる瞬間のまま、これから訪れる快感に期待した瞳のままで動きを止めた。

 女を犯し続けた男は、鉄格子の中、小さな窓を見上げたまま。
 愛を取り戻した夫婦は、楽しげに連れ立って歩いた姿で。

 いつかこの世界が再開された時、彼ら彼女らは、その時間の空白に気付くこともなく、再び動き始めるのだろう。



 世界の歪みが解消されるその日まで。


 ずっとこのままで。


 世界はその日を待ち続ける。
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