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シミュレーション仮説 (旧作)
第12章 医学の研究者達が額を突き合わせるように、
 ぐったりと恵子はベッドに横たわる。
 篤志と結婚して数年。

 見た目も稼ぎもよく、優しい夫でもある篤志に、しかし恵子はたったひとつ、不満を抱いている。

 篤志の性欲が強すぎるのだ。

 毎日毎晩、体を求められ、その頑強な体に激しく責められる。
 さらに、それが一度では終らない。
 まだ子供がいないのをいいことに、就寝前ではなく、仕事からの帰宅直後や夕食後、入浴時に交わることもある。
 何も予定がなければ、休みの日は一日中続くこともあった。

 恵子は篤志の十歳下の三十五歳。
 四十五の篤志よりもずっと若い恵子のほうが耐えられなくなってきていた。

 いっそ浮気でもしてくれたらいいのに。それか風俗にでも通ってくれるか。

 しかし篤志は、それ以外では完璧に近いほどの夫だった。
 家事も手伝ってくれるし、休みの日にはいまだにデートに連れて行ってくれる。
 
 それでも恵子は真剣に離婚を考えている。

 このままでは夫の責めに殺される。

 そんな篤志の体にある日異変が起こった。

 男性としての機能を失ってしまったのだ。
 前触れも予兆も全くなく、ある日、勃起出来なくなった。

 恵子としては、夫の体が心配でもあったが同時に安堵もした。
 これであの、地獄のような責め苦から解放される、と。

 篤志は急激に男としての自信を失くしたようだった。
 口数が減り、仕事でも今までの優秀さが影を潜めてしまった。
 
 もちろん、夜の営みもなくなった。

 日に日に衰えていく篤志が、さすがに恵子も心配になった。

 金銭的には問題はない。今まで篤志がたくさん稼いでくれたから。
 篤志を休職させると、様々な名医の元を訪れた。
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