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快楽の奴隷
第1章 プロローグ
彼女は改めて周囲に視線を巡らせる。
幸い誰一人として花純を気にしているものはいなかった。

それでも緊張は解けないまま、隠すようにレジへと急いだ。

一応は十八歳未満が購入出来ない書籍であったが、ベストセラーの本とあってか書店員はまったく気にかけた様子もなくレジを打つ。

「カバーはお掛けしますか?」
「は、はいっ……」

緊張のために上擦った声になってしまった。
しかしその店員はいたって事務的にカバーをかけ、袋に入れる。

支払いを済ませた花純は存在を消すように身を縮めて出口へ向かう。
冬の寒風に押された扉はやたら重く感じさせた。
その一枚ガラスの戸を力強く押し開けると、セーターの荒い編み目を貫いて寒気が突き刺した。

しかし緊張と興奮で発熱していた花純は、その冷たさが心地いいとさえ感じる。

いくらカバーをかけたからといって十七歳の彼女には、それを電車内で読む度胸はなかった。
家までの帰り道が焦れったいほど遠く感じられた。
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