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快楽の奴隷
第16章 応えすぎる心
読み終えて、息継ぎのように顔を上げた花純に高梨は焦れる。

「どうだった?」
「面白かったです、とても。ただ」
「ただ?」

緊張した高梨の顔に花純は一度頭の中で言葉を整理する。

「ただ、私が読むとあまりにも自分を想像してしまうので客観的な意見は言えないかもしれません」

笑いながら花純は原稿を高梨に返す。

「まあ、確かにそうかもしれないな」

少し不満そうな顔をしたが、プロの編集者ではない花純にそれ以上細かいことを要求するのも難しいために納得する。
高梨は作品の細かい部分を説明し、どんな意図があるのかなどの説明を繰り返していた。
花純はそれを上の空で聞いてしまう。
しかし彼はそんな花純の様子に気付く様子もなかった。

一番最初に読ませてくれたことに感謝を述べ、花純が高梨の家を出たのは二十三時に近い夜更けだった。
高梨の家に背を向けた瞬間、堪えていた涙が花純の瞳から流れ落ちる。
その涙は止めようがないほど溢れていた。
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