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快楽の奴隷
第16章 応えすぎる心
高梨の書いた新作、『揺れる花』は花純の心には響かなかった。
官能を棄てた高梨のラブロマンスはあまりにも平凡で、背徳感もなく、斬新なところもない。
かつて評論家が『湖畔を抜けて森の中へ』に向けた酷評である「老いらくの恋」という言葉が当てはまってしまうようにさえ感じた。
敬愛する作家の鋭く尖った斬れるような感性を自分が『なまくら』にさせてしまった。
その罪の意識で心が押し潰されそうだった。
別に官能描写がなくても構わない。
けれど高梨の持ち味である妖しさが消えてしまったことが辛かった。
禁断の恋や赦されざる関係に思い悩みながら、より深みに嵌まっていってしまう葛藤。
そしてそんな深刻な状況にも関わらず、全編を通して貫かれているウィットに富んだジョーク。
斜に構えて世間を見るニヒルな姿というものがこの作品には皆無だった。
ひたすら甘い、むず痒くなるようなロマンスが延々と綴られている。

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