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快楽の奴隷
第17章 闇と光
子供が投げたフリスビーが放物線を描き、秋空に舞う。
父親がそれをキャッチすると、子供は世界の平和が救われたかのようにはしゃいで喜んでいた。

高梨さんをあんな風に『いい父親』にしては、いけないんだ……

思わず涙が溢れそうになり、慌てて花純は空を仰いだ。
幸い高梨は微睡んだ視線で遠くを眺めていたので、花純の異変には気付かなかった。


花純は高梨の元から姿を消す覚悟を決めていた。
彼の作家としての才能を殺さないための引き換えに、自らの気持ちを殺すことを決意していた。

今日は最後に高梨の姿を記憶に焼き付け、心に刻む日だった。
しかし幸せそうな親子を見ているとその決意も鈍る。
作家だから、彼が『幻野イルマ』だから好きな訳ではない。
人間として高梨を愛している。

もし高梨の才能が枯渇しても愛は変わらない自信はあった。

しかし自らのせいで高梨の才能を消し去ってしまうというのは耐え難い苦しみがあった。
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