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快楽の奴隷
第17章 闇と光
馬鹿げている。
それは自分でも分かっていた。
愛しているのに、愛されてるのも分かっているのに行方を眩ませる。
普通に考えてそんな馬鹿なことをするなんてあり得ない。
けれども彼女は愛する気持ちよりも高梨の才能を選んだ。
作家として高梨が輝くことが花純にとって何よりの悦びだから。
『湖畔を抜けて森の中へ』で脚光を浴びた今こそが、彼の正念場だ。今こそ自分が真の意味で『創作のミューズ』になるときだと確信していた。



ディナーをホテルのレストランで摂った後、そのまま高層階のスイートに泊まっていた。
元々高台にあるホテルの高層階だけあって街全体だけでなく、湾全体が見渡せた。

「すごい……山から見る夜景とはまた違いますね……なんと言うか……光に手が届きそうな感じ」

花純は窓に手をついて光の群れに心を奪われていた。
その灯りの一粒ひとつぶは見るものを喜ばせるためにあるわけではなく、営みの証しなんだと思うと余計に美しく思えた。
ここから見れば小さな灯火の一つひとつだが、間違いなく今も様々な物語がその灯りの下で繰り広げられている。
二人のいるこの部屋は電気を着けていなかった。
ぼんやりとした月明かりに照らされた花純の横顔に、高梨は危うい美しさを感じていた。
いつもより儚げで、透き通るほどに美しい。
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