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第18章 なくして、得るもの

高梨さんは私がこの小説を必ず読むことを知っている。
そして読んだ私がこんな風に動揺することも見透かしている……
ここで慌てて彼の元に戻ってしまったら、高梨さんの思い通りになってしまうっ……

花純は唇を噛み、堪えた。
ここが彼の作家としてのゴールじゃない。
高梨の芸術のために身を引いたことが無駄にならない為に、今はまだ戻れない。

『「私の選んだ選択は間違っていなかった」。心の奥底からそう思える日のために、今は堪える。高梨さんの芸術が完成する、その時まで……』




しかし残念ながら、彼女が自分の選択は間違っていなかったと思える日は来ることはなかった。

『或る愛のかたち』発表から一週間後、インターネットのニュースに作家『幻野イルマ』の死去を報せるニュースが流れた。