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虹色の楽譜
第1章 赤
つまらない。

少し前から食事に何回か誘われていた人がしつこいから
OKしたけど。会話がつまらない。

好きでもない男と2人で食事に来るから。
こんな事になるんだ。

エリート君が連れてきてくれたレストランは
なかなか予約が取れない事で有名だ。

こんな良いお店なのに。つまらない会話にうんざりする。
適当な愛想笑いで相槌をうって食事を堪能する事に集中する。

ところどころ、頭からすっぽ抜ける相手の会話より
このお店に堂々と鎮座しているピアノに釘づけになった。

正確に言うと、ピアノを弾いている男に釘づけになった。

「何・・・あの音」

ピアニストが完全に音を支配していた。
「村松さん、あのピアノ良いでしょう?
村松さんにも聴かせたくて。お店をここにしたんだ」

その男の言葉なんか半分も頭に入ってこなくて。

ピアノの音だけが耳に滑り込んできた。
私はピアノの事なんか全く分らなくて。
上手い演奏を聴けば素敵な演奏だな、とは思うけど

こんな風に。
音を支配しているなんて感じたことはない。

薄暗い間接照明の店内で
ピアニストだけがピンスポットを浴びていた。

それはまるで、食事のためのピアノではなくて
私たちはピアノ演奏のための観客のようで。

「スタインウエイだよ」

男の言っている言葉なんか何一つ理解できなかった。
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