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揺れる恋 めぐる愛
第12章 普通と特別
なんとなく緊張した面持ちの大希さんが、

「そういうことだから……

シャワー浴びて出かける」

とだけ言い残し部屋から消えた。


それから……

私たちは電話で言われていたままに、

何かのブツを焼いたらしいその女(ひと)のところに行くことになった。


車窓はさっきから建物がほとんどない自然の中で木立と空が続き、

車内はギターのインストゥルメンタルが静かに流れる。

空気は良さそうだけど……

いったいどこまで行くんだろう?

「あとどのくらいかかるの?」

「30分くらい」

「……」

それ以上言葉が続かない。


おそらく拒否権のないその様子に、

こんな人だけど逆らえない人がいるんだなとおかしくなる。

最初は連絡することすら嫌がったのに……

それでも隣りで運転する横顔はどことなく穏やかで弾むようだった。

彼は思わぬ好物にありつけるのかもしれない……

たぶんあの松花堂弁当を作る料理を教えたはずの人だから、

何をしてもそつなくこなすのだろう。

ヒーターが効いて暖かいはずなのに、ブルっと震えが走る。

よくわからないことは怖い……

それでも何かがあって私を会わせようとした人なら、

良くも悪くも、今の私で会うしかない。

緊張することに変わりはないとしても、

取り繕っても仕方がない。

空を見上げ雲の動きをただ見ていた。

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