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藍の果て
第7章 疑惑
リオと呼ばれた子供は、シルヴァの目から見ても確かに身軽だと感じていた。
油断をしていたとは言え、回避することが出来なかったのだから、子供にしては躊躇いの無さも評価できる。
が、所詮は子供だ。あんな細い腕で何人もの屈強なバルト兵達の間を渡り合えるとは到底思えない。
「あんなもん、使い物にならねぇ!」
「どうだろうな?三年間見てきたが、あいつは中々有能だ。それとも、あんたは……使い物にならない様な奴に、そいつを付けられたのか?」
あの場に居なかった男に見透かされて頬の傷口を指摘された事に、シルヴァは返す言葉を失ってしまう。
それを見越していたかのように穏やかな笑みを浮かべていた。
「リオには俺から話しておく。あんたがもし、連れて行こうという意志があるなら、俺の代わりではあるが推薦する」
一方的に言い終えたデイジーは再び何事も無かった様な調子で、リビングへと戻っていった。
残ったシルヴァは思わず頭を抱える。自分でも驚くほどに気力が抜けた様なため息が零れていた。
三年間、デイジーの言葉を追いかけてきて、ついに居場所を突き止めた。
しかし、当の本人に薦められたのは、まだ小さな子供一人。
妻である女は、家族の為にデイジーは此処に残るのでは無いかと口にしていたが、あの子供を薦めてきた今、それすらも疑わしい様に思えてくる。
結局、デイジーという男が一体何を目的にバルトから逃げたのか、パルバナで生きているのか、更に闇に覆われるように見えなくなっていく。
「あいつは……一体、何がしてぇんだ……」
一人誰に告げる事も無く呟いた三年間の本音が、シルヴァの口をついては行き場を無くし消えていくのだった。