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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら
◇◇◇◇
鈴木総一〈スズキ ソウイチ〉を一言で表現するならば、うだつが上がらない男だ。
入社して七年目になる会社での営業成績は常に最下位。上司から小言を言われ、部下からは陰口を叩かれる日々。
営業先ではへこへこと頭を下げて媚びても、契約は取れず仕舞い。
「キミ、営業向いてないんじゃないか?」
という台詞を幾度聞いたことか。
プライベートでは先日長年付き合っていた彼女の浮気が発覚し、別れてしまったばかり。別れ際の彼女の捨て台詞はこうだ。
「あなたって家具の下の隙間みたい」
総一は意味を解せなかった。どういうことかと訊ねると。
「目につかなきゃ気にならない。だけど一度気になりだすと、とことん掻き出したくなる。しかも掻き出したところで埃しか出てこないの。そういうことよ」
やはり意味が解らなかった。ニュアンスとしてはおおよその見当はついた。
月日は積り、交際期間は長くなった。さしたる危機はなく過ごしてきたが、顧みてみると山のような不満が綿埃のように出てきた――ということなのだ。
しかし浮気をされた自分がなぜ捨て台詞を吐かれなければならないのか。そこが総一には意味が解らなかったのだ。
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