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溺れる恋は藁をも掴む
第14章 二十歳の恋
私達は駅を目指して歩いた。

セックスさえ上手くいっていたら、
まだ誠治さんの腕の中で甘い余韻に浸り、
可愛い女でいられたかも‥‥
なんて考えたら、泣き出しそうになる。

『ダメ、泣いたら』
私は唇が切れてしまうほど噛み締める。



「映画良かったね。
なのに‥‥
今日はごめんね。
嫌われちゃつたかな?」

沈黙を破るようにポツリと誠治さんは言う。

私は首を横に振る。

『そんなに簡単に嫌いになれませんよ』
そんな言葉が喉元まで出たけど、
言えなかった。


「今度は水族館にでも行かない?
嫌われてないならの話だけど」

「えっ!」

「好きなんだ。
水槽で泳ぐ魚見てるの」

「はい‥‥‥」

「ちゃんと付き合っていこう」

「え?」

「ダメかな?
俺じゃ?」

「ダメなわけ‥‥
ないじゃないですか!」

「華ちゃんを、ちゃんと愛すから」

「はい」

「こんな俺だけど、
ちゃんと愛すから」

「はい」



駅に向かう間に、
あなたが私に言った言葉。


『ちゃんと愛すから』


その言葉を信じて、
心の靄を追い出した。



「好きです。
誠治さん」

「好きだよ。
華ちゃん」



私達は手を繋いだ。
喧嘩の仲直りをするカップルのように。



あなたが私を愛そうとしてくれた気持ちは、
嘘じゃないって今でも信じている。


だからあなたと終わった後も、
私はあなたを、本気で恨むなんてことは出来なかった。
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