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溺れる恋は藁をも掴む
第15章 カルアミルクとビール
誠治さんの仕事が落ち着いた週末に会った。

約束通り、観覧車のある葛西臨海水族園に行く。
マグロの泳ぐ大きな水槽を見て、
あなたは喜んでいた。

「マグロの群泳ってさ、
マグロ達のルールみたいなもんなのかな?
それをするのが当たり前で、
人間みたいに、人に合わせて生きていく難しさなんて考えたりしないで、自然の法則みたいなものに従ってるのかな?
それとも何にも考えてないとか?」

「どうでしょ?」

「もっと勉強してから来るべきだったな。
本来なら、海の中でもっと自由に泳ぐはずなのに、
水槽という枠の中で、人間の観賞用として命を全うする。
自然よりは危険も少なくて、餌も与えられてさ、
当たり前な生き方を人間が奪っている。
そう考えると、人間はエゴの塊だね。
それでもこの姿を見たくて訪れるし、
デートコースにもしちゃうんだからさ」


「そんな風に考えた事ありませんでした」


「漠然に思っただけ。
今度生まれ変わるなら、
せかせかサラリーマンなんてしないで、
海洋学なんか研究したいもんだね。
海に宿る生物達の謎なんかを追求したりさ」

「誠治さんに似合いますよ。
私は今度生まれ変わるなら、
スタイルのいい女になりたい。
思い切り大それた夢を語るなら、
パリコレモデルとか?
有名なデザイナーの洋服を格好良く着こなすの。
それでいて美人で注目を世界から浴びたり…
なんてね」

「パリコレモデルと海洋学博士か」

私達は顔を見合わせ笑う。

もし、生まれ変わりがあるのなら、
今度はスタイル抜群で綺麗な女に生まれたかった。

あなたと恋をしても、
自信を持ちたかったからよ。


そんな誠治さんは、
枠の中を飛び出したい魚だったんじゃないの?

あなたは水槽を眺めながら、
表面では楽しそうな顔を作るけど、
心の何処かで境界線を引いてしまい、
それをうまく隠そうとしながら、
孤独を背負って生きているように見えた。


私達はセックスさえ知らなければ、
凄く仲の良い恋人だったかもね?

話をしていて飽きないし、
穏やかに語る誠治さんの声も好きだった。

握った手を離されないように、
しがみついていたかった私は‥‥‥
いつか離されてしまう事も、心の何処かで予期していたよ。

でも、それが大きく外れる事を祈ってた。
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