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溺れる恋は藁をも掴む
第16章 陽だまり
百合は駅前の《クレッシェンド》という店のホステスだった。
歳は俺より3つ上で、当時21歳。

「へぇー。
君、高校生なんだ。
私よりは若いって思っていたけど、
いい頃だね。
私、高校中退でさ、
学歴ないから、生きてく道に苦労すんのよ」
笑いながら百合は言った。

「学歴って、
そんなに大事?」

「さぁ、どうなんだろ?
勉強ってさ、
面白くないからサボるじゃん、
後になってから、あの時やっておけば良かった!
なんて後悔するのよ。
学歴が全てってわけじゃないかも知れないけど、
学ぶ事に意味があるのかもね」

「そんなもん?」

「そんなもん。
学ぶとこ学んで、
知らない事は知るべき。
君の未来は無限大だよ!
これからよ」

「大人はみんな同じ事言うんだな」

「大人だからじゃない?
大人だから、自分の失敗を語って、
忠告するんじゃん」

「忠告ね‥‥」

「あ!君にお礼しないと」

「なんの?」

「健康的なストレス解消法を教えてくれたから」


聞けば、
その日の百合はむしゃくしゃする事があって、
パチンコ屋で朝から打ってたけど、
のまれてしまって、
かなりの大負けをしたらしい。
店の時間まで打って、
大勝ちしてホクホクで帰るはずだったのにって、
悔しそうに言う。

そんな帰り道、
『カキーンカキーン』の爽快音に誘われるように、
ここに来たらしいが、
やってみたら、
中々難しくて、
打てない自分に余計に悔しくなったとか。

そんな時、
隣でずっと打ち続ける俺を見て、
一球でも打たなきゃ、帰りたくない!
自分も打って、あの爽快音を聞くんだ!って、
余計闘志を燃やしたらしい。

そんな俺は、段々と百合の天然マイペースぶりに嵌ってしまい、日曜日にファミレスで昼飯を食べる約束までしてしまった。

「これから店だから、
日曜日ね!」
連絡先を交換して、
お日様の笑顔は帰っていった。

俺はずっとその後ろ姿を見送っていた。

俺、笑ってたんだ。
久しぶりに心から。


樋口百合か‥‥

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