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溺れる恋は藁をも掴む
第17章 溺れる
百合との約束は守ったんだ。
めちゃくちゃしんどい約束だったけどさ、
百合を大事に思っていたから、
我慢出来たんだ。
ある日、家に帰ると玄関からカレーの匂いがした。
家に入ると、食卓で笑う母さんと弟が居た。
「晶、お帰り」
にっこり微笑む母さん。
カレーを待ちきれない様子の弟。
「今日ね、柊ちゃん(弟)と映画観たの。
柊ちゃんが帰り道にカレー屋さんの前通ったら、食べたいっていうから、お家でお兄ちゃんと食べようって言い聞かせて、作ったんだよ。
もうね、凄い面白い映画でさ、
柊ちゃんと笑いっぱなしだった。
柊ちゃんの笑顔も久しぶりに見た。
晶、ごめんね。
あなたにも随分、迷惑掛けたね。
お母さん、ちゃんとするから。
悲しんでいてもお父さん報われないもんね」
親父が死んでから、
ずっと塞ぎ込んでいた母さんが、
ここまで元気を取り戻してくれた。
仕事にも復帰して働くようになった。
「ずっと、弱いお母さんを、
晶が優しく支えてくれたから、
このままじゃいけないって思ったの。
晶、もう大丈夫だからね」
久しぶりに母さんのカレーを、
笑顔がいっぱいの食卓で食べた。
百合が居たからなんだ。
百合が心の支えになってくれたから、
俺は優しくなれた。
人を好きになるって、
物凄いパワーなんだな。