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溺れる恋は藁をも掴む
第17章 溺れる

重苦しい雰囲気の中、
よくよく考えたら、
俺は百合に偉そうに言える立場ではなかった。
俺は好きな時に百合の家にやって来て、
百合の優しさに甘えるだけで、
バイト代が入った時に食材を買ったり、
外食に誘う程度で、
百合にプレゼントしたのは硝子靴ぐらいしかない。
それでも百合は文句も言わず、
お日様の笑顔でいつも俺を迎えてくれていたのに…
自分の欲ばかりが先行していた。

唯一プレゼントした硝子の靴は、
百合のベッドサイドに大事に飾ってくれていた。

『私の宝物だから』
って。


「…ごめん…百合。
俺、言い過ぎた。
自分の事ばっかで……
本当にごめん」


「あーぁ、
目が腫れちゃった。
これじゃ、お店無理だわ。
晶と焼肉でも食べようかな?
初めて喧嘩した記念に」


「百合……」

「少し贅沢な肉買ってさ、
めいいっぱい食べる」

「俺がご馳走するよ」

「まだまだ親のすねかじり大学生の癖に!
生意気なんだよ‼︎
でも、今日は晶にご馳走して貰う。
私を虐めた罰だよ」


百合は険悪なムードを回避しょうと、
大人になってくれた。

確かに俺はすねかじり。
胸に突き刺さる痛い言葉だな。

自立も出来てない俺が偉そうに言うのは、
お門違いだった。




その日以来、
百合の仕事の事は言わないようにした。

本音を言えば、
百合を傷つけて、
離れていってしまう事が予想出来た。


触れたら呆気なく壊れる禁句って、
誰にでもあるんだよな。

俺が真正面から好きな気持ちをぶつければ、
ぶつけるほど……

百合は辛かったんだよな。







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