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溺れる恋は藁をも掴む
第17章 溺れる
出勤前の百合は、ドアを開けて俺を部屋に上げる。

紫陽花の色のような薄紫色のスーツ姿の百合。
そっと抱きしめた。

「今日……
親父の一周忌だった」

「えっ⁉︎そうだったの?」

「あっと言う間だった」

「……うん」

「そう思えたのは、
百合のお陰」

「……私はなにもしてないよ」

「百合が居たから、
乗り越えられた」

「晶…」

「百合、
ずっと、俺の傍にいて。
今日みたいにしんみりしちゃう日は、
百合を抱きしめて、
安心したいんだ。
ひとりじゃないって…」

「…うん」

百合をギュッと抱きしめた。

「ずっとだぞ。
結婚しょう。
まだ、先になるけど、
すねかじらないで、
ちゃんと自立した時は、
俺とずっと一緒にいよう」


「晶……」


親父に見守られながら、
好きな女にプロポーズしたつもりだった。

百合はその日、
店を休んで、ずっと一緒に居てくれた。
親父が好きだった好物をテーブルに並べて、

「お父様のご冥福をお祈りします」
って、親父の好きだった酒を添えて。

ずっと……
百合とこの日を、こうして過ごしてゆくんだと思ったんだ。
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