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月の吐息
第1章 三日月
優しい拍手の中、ドレスの女性が去っていくのを、うっとりと眺めて口を開く。
「すごい…、良かった」
「な? 来て正解だったろ? お前、Jazz好きだし」
「うん、特に"Moon River"が良かった」
「うんうん。あれが演奏されるって知ってたから、今日がタイミングだったってわけ」
「なるほどね~」
暫く生演奏の余韻に浸りながら、スクリュードライバーを楽しむ。
そんなにお酒は強くないから、大体1杯で酔っちゃう。今日も、この1杯で満足しちゃいそう。
「こんなお店知ってるなんて、いつの間に大人になっちゃったの? 泣き虫ケンちゃん」
頬杖をついて横目で見ると、思わず口にいれたブランデーを吹き出しかけてる。
相変わらず、お酒強いね。もう4杯目?
「幾つの時の話だよ。ガキの時と一緒にすんじゃねーよ」
「だって、男は幾つになっても少年って言うでしょ?」
「待て待て待て。俺、もう28だぞ。それ言うなら、お前だってパッツン番長って呼ばれてたよな」
「は? 喧嘩うってるー? いじめっ子から守ってやった恩を忘れたの?」
頬を膨らませて応酬。
「まだパッツンで良かったよなー。最初、俺、あれ聞いた時、”プッツン番長”と聞き間違えてさ。切れやすさ強調してんのかと思って、すげーウケた覚えある」
「うーるさい。あーあー、私を守ってくれる王子様は、どこにいるのかなー」
「だから、お前は守る側だろ? 番長なんだし。・・・いてッ」
ほんと、失礼なんだから。
グーで殴ってやった。
「あのね。あんたが28なら、私も28なの。もう番長じゃないし、前髪だって、パッツンじゃないでしょ?」
唇を尖らせて、前髪を指で摘んで見てたら、カウンターの奥で動いてるバーテンが目に入った。