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月の吐息
第4章 美月
■美月■
タクシーで言い合いしながら、何度か訪れたことのある健二の家に連行される。
「酔ってるじゃん」
「酔ってない!」
「酔っぱらいは、酔ってないって言うんだっつの」
「酔ってないし、ちゃんと、歩けるもん!」
怪しい呂律で言い返しながら、結局、健二の家のソファに沈んでる。
でも、家までならタクシーで帰れる距離だし。酔いが覚めたら帰るんだから。
「っていうか、なんで、今、私は健二君のおうちにいるんでしょーか?」
「そりゃ、お前・・・。とりあえず、ほら、水」
グラスを渡されて、仕方なく飲んでやる。
「落ち着いた?」
「まぁね。最初から、落ち着いてるけど」
口の減らない私を無視して、健二は隣に腰掛けると、私の手からグラスを取ってローテーブルに置いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・何よ」
そういう沈黙は、私達の間では不要でしょ? 幼馴染なんだもん。楽しくやっていくのが大事じゃないの?
まぁ、それも、今は、どうかって感じだけど。
「ネックレス、してないんだなって、思ってさ」
「・・・・・・」
「ちょっとだけ、浮かれてた。電話で声が聞けてさ。お前と一緒に、これから、もっと楽しくやっていけるかなって思ってた」
何それ。それって、私のせいで楽しくなくなったみたいじゃない。
「でもさ、帰ってきて気付いたんだよな。俺がお前に電話した時、ミラノは7時間遅れてて。29歳のお前の夜を手に入れたと思ってたけど、俺は何も手にいれてなかったんじゃないかって」
私は、ものじゃないっつの。
「出張に行く前に、意気揚々とプロポーズ宣言とかしてさ。海外行ったらガキみたいに声が聞きたくなって、我慢できなくて、国際電話までして。会えないのに、会いたいとか言ったりして。・・・帰ってきたら着信拒否られてるとか、アホすぎるけど、でも、俺、諦めきれなくて」
「・・・」
「だから・・・、俺、美月に、もう1回、ちゃんと言おうと思ってさ」
「健二・・・」
「ん?」
「吐きそう」