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月の吐息
第5章 Moon River
■Moon River■
「月の曲って、色々あるなー」
「ね」
久しぶりに2人で訪れたBARで、カウンターに寄りかかり、気持ちよく酔う。
耳に残るピアノの余韻に、まったり浸っていたら目の前に誰かの手が出てきた。
「え」
「お二人に」
イケメンが、いつかの時みたいに、ナッツの小皿を二人の間に置く。
「相変わらず・・・イケメン・・・」
「おい、美月。心の声、だだもれなんすけど?」
「だって。仕方ないでしょ、事実だもん」
「あーあーあー」
隣でふてくされた健二が面白くて、横目で見て笑う。
イケメンは既に自分の仕事に戻ってて、こっちを見てもいない。
凄くクール。
「もしかして、私さー」
「うん」
「ちょっと、早すぎた、かな?」
「なにが?」
「高松美月に、なるのが」
「ばっ!」
健二がガバッと振り向き、一瞬、フロアの客の視線が集まった。
慌てて居住まいを正す健二を見ながら、くすくす笑っていると、不意に肩を引き寄せられる。
「あのな、美月。一つ教えてやる」
「んー? 何?」
笑いながら返事してたら、頬に一瞬キスされて、耳元で声がした。
「あの人な、すげー、黒いって噂だぞ」
「えっ・・・、嘘」
驚いて身体を離した瞬間、通り過ぎかけたウェイター君が、ひょいと身体を戻して会話に加わってきた。
「それは、ほんとっすよ。国崎さんは、別名、まっくろ黒崎さん」
「小鳥遊(たかなし)」
「っと、はい」
イケメンに注意されたウェイター君が、赤い舌を出して笑ってから、去っていく。
「意外ー」
「だろ?」
「でも・・・、今も、私達の会話、気付いてたってことだよね?」
カウンターへ視線を向けても、あのバーテンはカクテルグラスに砂糖をつけている。
周囲を確認してる気配は微塵も無い。
首を傾げながらナッツを摘んで・・・、でも、ふと思い出した。
「そういえば」
「ん?」
―――入店3回目の記念に。
気付いてたんだ。最初の入店の時から。
「うぅん、なんでもない」
思い出して、その視野の広さに驚いたけれど、もう、間違えない。
笑って、ナッツを口に放り込んだ。