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夢想姫の逃避録
第1章 泣かないで
しばらく愛那ちゃんと取り巻きの女子に踏まれて動けない状態が続くと、廊下から誰かが近づいてくる足音が微かに聞こえた。
「チッ。つまんね。円堂来ちまった」
愛那ちゃんたちは円堂先生が近づいてくる音に気づくと、とっさに足を離した。
取り巻きも緋奈に文句ありげに冷たい視線をぶつけながら足をどかして渋々席についた。
周りで見ていた野次馬や見て見ぬ振りしていた生徒も蜘蛛の子を散らす様に席についていった。
ボロボロになった緋奈が立ち上がった瞬間、教室のドアが開いた。
40代くらいの清楚なポロシャツを着たおじさん先生が入ってきた。担任の円堂先生(えんどう)だ。
「おはようーさぁみんな席つけー!ん?東雲、お前なんで朝からそんなところいるんだ?そのボロボロの格好どうした……?膝も擦りむいてるし……」
「あ……あ……大丈夫……です……自分で転んだだけです……保健室行ってきます……」
緋奈は今にも消えてしまいそうな声でそう答えておいた。転んだだけでこんなに見すぼらしい格好するわけがないのはわかっているんだけれども、周囲の視線が怖くて咄嗟に口にしただけ。
「……あっそう。行ってきなー!」
円堂先生は愛那ちゃんを一度見てから視線をすぐに緋奈に戻してそう言った。
愛那ちゃんはそれを見て、緋奈の隣で勝ち誇った様にも見える笑みを浮かべながら、ニコニコと緋奈と円堂先生を交互に見ていた。