この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
eyes to me~ 私を見て
第54章 擦れ違う恋人たち

孤児だった自分を引き取った菊野。
母親と言うには若い、そして大人らしからぬ幼さを持った菊野を、いつしか女として見る様になっていた。
いや、最初から母親とは思えなかった。
一度も母さん、と呼んだ事は無い。
実の両親からほぼ育児放棄の様にされてきた綾波は、子供らしさを持たない子供だった。
西本の家に引き取られ、天真爛漫な祐樹と無邪気な菊野、優しい義父に今までされた事のない家族として温かく迎えられ、最初はかなり戸惑った。
両親からされた仕打ちを全部覚えている訳ではないが、深層の何処かにひねくれて膝を抱えて他人を寄せ付けない何かを自分は持っていたのだろう。
自分に向けられる無償の思いやりという物を、長い間信じられなかったのだ。
だが、菊野はそんな自分にいつもぶつかってきた。
そして、いつの間にか自分の心は菊野の優しさによって溶かされて、それは親愛の情を飛び越えて狂おしい恋情に変わった。

