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曖昧なままに
第13章 忌むべき過去(愛美の独白)
「……」
私はそれを聞いて、呆然と立ち尽くす。
母との仲が悪くなれば、自分が柴崎さんの一番になれると思っていた。それはあまりにも、愚かしい想いであろう。現実はまるで容赦なく、そして時にとても冷めている。
母と柴崎さんとの大人同士の関係が、その終焉を迎えると。付属品である私は、そこに倣うしかなかった。もの凄く単純で、明解な仕組み。たったのそれだけのことを、私はようやく理解していた。
母から柴崎さんを奪うなんて、最初から不可能。いいえ、そんな覚悟さえなかった。只、心の赴くまま、必死に背伸びをして。高い処のモノを掴み取ったつもりになり、浮かれていたに過ぎない。
結果的には何処まで行っても――それは子供の戯事だった。けれども――
柴崎さんは、自分の荷物をせっせと纏めている。何処に行くのだろう。きっと、それすら決まってはいまい。また何処かへと、転がって行くのだ。
「……」
ファサ――。
私はその背中を見ながら、最後の抵抗を始める。
「じゃあ、元気で――!?」
振り向いた柴崎さんは――私を一目見て唖然とし、手にした鞄を畳に落とした。
「ま、愛美ちゃん。何を――?」
私は服を全て脱ぎ去り、全てを晒してそこに佇む。
「わ……たし」
伝えようとする意図に逆らうように、言葉が上擦り思うように喋れない。ふくらみ始めた胸。その先端が緊張を表すよう、ピリッとして固くなった。柴崎さんにだって、裸を見せるのはこれが初めてのこと。
そんな恥ずかしさに耐え、それでも口をついたのは、私の如何ともし難い怒りだったのだと思う。
「わ、私っ……一体、何だったの? 柴崎さんのを……何度も何度も……それを、褒めてくれたんでしょ。あれは……何の意味も、なかったの?」
「ごめんな……。俺は最低のおじさんだった。そう思って、忘れておくれ」
「止めてよ……おじさんとか言わないで。忘れてなんて、あげないから!」
「だが……俺は……?」
「もう、お母さんが関係ないなら。今度こそ私を……愛美を見て」
「愛美……」
「一瞬でもいい。柴崎さんは、愛美をどうしたいの? それを、教えて」
「それは……」
柴崎さんはじっと考え、それから言った。
「わかったよ。でも……これで最期だ。それでいいか――愛美?」
「うん……」
――私は彼を刻もう、として。