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曖昧なままに
第15章 唯、興じて
雨はいよいよ激しく降り注ぎ、横殴りのそれは傘に役割を全うさせない。時折、強い風に煽られると、足元はおろか肩口にまでが冷たい礫に晒されている。
「……」
空がゴロゴロと不穏な音を奏でる中で、俺はその建物を眺めていた。胸中には一抹の不安と微かな期待が混同している。
だがそれも、大半を占めた想いの――ほんの一部。
脇の階段を一歩一歩と昇りながら、俺はふと静けさを覚えた。降りしきる雨の騒ぎに比べ、人の営みの気配があまりにも希薄――。
そのドアの前に立つと、左手の人差し指をその傍らへと運ぶ。しかし、ボタンに触れる前にその手を引くと、そのままドアノブを掴んだ。たぶん鍵は開いているのだと、そう予感して、ゆっくりとそれを回す。
――カチャ。
古いドアは自然と隙間を作り、俺は僅かな力を加えてそれを引いた。
「……」
覗き見たその室内に、灯りはなく。またその中からは既に、生活の匂いを感じることはなかった。台所の脇には、積み上げられた幾つかのダンボール。それらを掻き分けるようにして、俺は部屋の奥へと進む。
畳の敷かれた部屋は、所々が青くて。家具の置かれていた場所を、示しているかのようだ。カーテンが取り外された窓には、容赦なく風雨が吹きつけている。
彼女はその前に立ち尽くし、窓の外を只々――見つめていた。薄暗い部屋に、薄らとその影が伸びる――。
俺はその背後に進み、その後ろ姿を見つめた。声をかけることを、躊躇している訳ではない。彼女の背中は、既に俺の存在を察知しているのだろう。
そして――
「雨……好きですか?」
彼女は外を見つめたまま、俺に訊ねた。
「たぶん――嫌いじゃない」
「そう……」
「君は……嫌い?」
「わかりません。だけど……何故か心が騒ぐ気がして」
「今も……?」
「ええ……とても」
静かにそう答えた後、少し間を置いて彼女は言う。
「来て……しまったんですね」
「ああ……」
「だったら、遠慮なく貴方を――」
その時、徐に振り向き――そして、轟く雷鳴。
「――喰らわせてもらいます」
ビカ――――ズゥン!
一瞬のフラッシュを背にして――愛美は色濃い影を、その身に纏う。
「……」
空がゴロゴロと不穏な音を奏でる中で、俺はその建物を眺めていた。胸中には一抹の不安と微かな期待が混同している。
だがそれも、大半を占めた想いの――ほんの一部。
脇の階段を一歩一歩と昇りながら、俺はふと静けさを覚えた。降りしきる雨の騒ぎに比べ、人の営みの気配があまりにも希薄――。
そのドアの前に立つと、左手の人差し指をその傍らへと運ぶ。しかし、ボタンに触れる前にその手を引くと、そのままドアノブを掴んだ。たぶん鍵は開いているのだと、そう予感して、ゆっくりとそれを回す。
――カチャ。
古いドアは自然と隙間を作り、俺は僅かな力を加えてそれを引いた。
「……」
覗き見たその室内に、灯りはなく。またその中からは既に、生活の匂いを感じることはなかった。台所の脇には、積み上げられた幾つかのダンボール。それらを掻き分けるようにして、俺は部屋の奥へと進む。
畳の敷かれた部屋は、所々が青くて。家具の置かれていた場所を、示しているかのようだ。カーテンが取り外された窓には、容赦なく風雨が吹きつけている。
彼女はその前に立ち尽くし、窓の外を只々――見つめていた。薄暗い部屋に、薄らとその影が伸びる――。
俺はその背後に進み、その後ろ姿を見つめた。声をかけることを、躊躇している訳ではない。彼女の背中は、既に俺の存在を察知しているのだろう。
そして――
「雨……好きですか?」
彼女は外を見つめたまま、俺に訊ねた。
「たぶん――嫌いじゃない」
「そう……」
「君は……嫌い?」
「わかりません。だけど……何故か心が騒ぐ気がして」
「今も……?」
「ええ……とても」
静かにそう答えた後、少し間を置いて彼女は言う。
「来て……しまったんですね」
「ああ……」
「だったら、遠慮なく貴方を――」
その時、徐に振り向き――そして、轟く雷鳴。
「――喰らわせてもらいます」
ビカ――――ズゥン!
一瞬のフラッシュを背にして――愛美は色濃い影を、その身に纏う。