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Dolls…
第22章 遠い街角
…でも、この窓からじゃ椎葉さんの屋敷のある山は見えない。
この窓は椎葉さんの屋敷のある山の方角とは真逆。
元いたアパートからなら椎葉さんの屋敷は見えたのに、ここからじゃ何も見えない。
大きなコンクリートの外壁が見えるだけで、山はおろか、木も草も、何も見えない。
太陽の光が差し込むだけ。
あんなに帰りたいと思ってた世界なのに、私の心は椎葉さんを探していた。
薄気味悪くて薄暗くて、この世とは思えない異世界のようなあの屋敷。
何度逃げ出そうとしたかわからない。
けど、出来なかった。
何度も訪れたチャンスを私は手放し続けた。
…後悔はしなかった。
椎葉さん…。
本当に、諦めが悪いというか未練たらしいというか…
振られて捨てられて癖に私の心の中には、まだこんなに椎葉さんがいる。
椎葉さんがいなくなった今のこの空間こそ私には異世界のように感じた。
それほどまでに私の心の中には椎葉さんが住み着いていた。
当たり前になっていた。
もう2度と会えない…。
だけど…。
「想ってるぐらいいいですよね…?気のすむまで想うぐらい…」
大丈夫…。
この胸の痛みはいつか消えてくれる。
いつか、笑い話になる日が来る。
いつか…。
きっと椎葉さんは今もあの屋敷で人形を作ってる。
今日も忙しく人形を作ってるんだ…。