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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第4章 【弐】
―琴路さまにございますよ。
すぐ後ろの若い侍女たちがひとひそと囁き合っている。
琴路―元の名をお琴―は、橘乃が嘉宣の眼に止まる前に寵愛を受けていた女だった。何でも江戸でも指折りの大店の娘とかで、行儀見習いで御殿奉公に上がったところ、見事藩主のお手つきとなったらしい。
色は白いが、眼は細くつり上がっていて、まるで狐面のような娘だ。たいして器量が良いわけでもないのに、何ゆえ、殿のお手がついたのかと当時、皆が首を傾げたものだった。