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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第5章 【参】
時々、今でも橘乃は自分を覚めた眼で見ているもう一人の自分がいることに気付いていた。
思えば、あの時―春瑶院が毒薬を橘乃に飲ませようとしたときこそが橘乃の運命の転機だったのかもしれない。殺さねば、逆に殺される。そう咄嗟に思ったのと、自分の大切な人たち、即ち腹の子と嘉宣を守るためには夜叉にもなろうと覚悟を定めた。
だが、今となってみれば、あの出来事があってもなくても、遅かれ早かれ自分は今と同じ道を辿っていたのではないか。