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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第6章  【四】
 心の中でそっと愛しい男に呼びかけたその時。
 ポトリと音がして、橘乃は弾かれたように面を上げた。
 見れば、椿の花が幾つか庭に落ちている。椿の花が花ごと落ちるのは別に珍しいことではないけれど、風もないのに、同時にこんなにたくさんの花が落ちるなんて。
 そんなこともあるものなのだろうか。
 何か得体の知れぬ胸騒ぎを感じた橘乃の耳を、男の野太い声が打った。
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