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タンバリンでできたオーロラ
第32章 頭取 権俵金蔵

名門である一〇橋大学時代には、周りの連中が馬鹿に見えるほど優秀だったし、異性からもモテた。声をかけるだけで寝てくれる女は腐るほどいた。
だが、そんな栄光に浮かれ、進歩を怠った。
いつまでも自分が時代の最先端にいると勘違いをし続けた果てがこの情けない有様だった。
愛人も囲えなくなり、女房もひとり娘を連れて出て行った。
秘書をつとめる女性社員からはセクハラ上司扱いで蛇蝎を見るがごとくの目つきをされる。
今ではどこにでもいる零細企業の親父となんら変わりない。
学生時代に見下していた相手には年収でも遥かに追い抜かれ、惨めな気分になるのが嫌で同窓会には顔を出せないでいる。もちろん、「忙しくて」という理由で欠席するようにしている。つまらないプライドだけは、カネと違っていつまでも残るものらしい。
そして、日々の資金繰りにきゅうきゅうとし、いよいよ追い詰められてもうどこからもカネを借りることができないほどになり、そしてすがる思いでここへと足を運んだ。
権俵金蔵……他とは違い、独自の価値観を持つ男だと聞いている。たとえ、他所の銀行が貸し剥がしをするような相手であっても、彼が首を縦に振れば法外な額の出資も有り得る……まさに、今の美木本にとっては救いの神のような存在だ。

