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タンバリンでできたオーロラ
第32章 頭取 権俵金蔵

今回の融資の話が流れてしまえば、完全に進退窮まる。
若ければマグロ漁船にでも乗る所だが、それは自尊心が許さない。
それぐらいだったらいっそ死んだ方がマシなのだが、実際にはそんな覚悟もない。漠然とした、曖昧な暗いビジョンから目を背けて生きる毎日だ。
権俵はそんな美木本を前に、鷹揚にソファに脚を広げて座ったまま、黙って話を聞いていた。
いや、聞き流していたというのが正しい。
目の前の男がつまらない人物であることは一目瞭然だった。
経歴だけは見るものがあるが、それだけだ。
チャンスを与えてやれば心を入れ替えてもうひと花咲かせるかもしれない。だが、それもただの確率の問題だ。
彼は確率など信じない。
何も信じはしていない。
今こうして黙っているのは、単なるゲーム。
カネに困った経営者が何秒間一人だけで喋り続けることができるのかを計測するただの彼の趣味のためだけであった。
そう、権俵金蔵が美しいのは見た目だけ。
彼は心の腐った男だった。醜い下衆野郎なのであった。

