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刺繍のような詩集のような。
第8章 掌(二次創作/ピンポン/非官能)
僕にとって、ペコはヒーローだった。
最初から、彼はヒーローだった。
最初から、彼が、ヒーローだった。
だから、彼と戦うだけで、僕は幸せだった。
彼と戦える場所があることが、幸福なことだと感じていた。
グリップを握って、ペコに教えられたことを思い出していた。
卓球は、彼のものだと思っていたから。
僕のものは、卓球の世界じゃなくて、この、掌の中の小さな世界だと思っていたから。
だから、僕がしたかったのは。
「そんなんじゃダメだ」
少年が落としたピンポン玉の音に、僕は立ち上がって上着を脱ぐと少年に近寄った。
「玉を乗せる手は力を入れないで。……そう。脇をしめて」
ペコに教えてもらったことを伝える。
ペコの世界を、少しだけ覗き込む。
ペコが目指す一等賞の意味を、少しだけ知ろうとしてみる。
「出来る?」
少年が頷いて、卓球台に玉をバウンドさせる。
それを見て、僕は小さく頷く。
それでも、ペコの言葉の意味は本当には分からない。
それは卓球がペコの世界だから。
ペコの居るべき、場所だから。
僕がしたかったのは、卓球の世界に居ることじゃなくて。
この掌の中の世界から――――――。