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ネムリヒメ.
第8章 雨.
「わっ!? ちょっ…」
目の前の彼の胸元から漂う甘いソープの香りが鼻をくすぐった
たった数日で、もう何度抱き締められたかなんて覚えていない彼の腕がアタシをすっぽり包みこむ
「…ったく、バカだなお前…」
「ぇ…」
彼の優しい声に胸がギュッと苦しくなって、込み上げてくるよくわからないなにか
「っ…ゴメンなさ……服、濡れちゃっ…」
咄嗟に出たのはそんな言葉で、なんで言ったのかわからないのに胸が苦しくて声が震える
「バカ……ムリに笑わなくていいのに」
頭をそっと引き寄せられて、密着してなにも見えなくなった目の前が彼の匂いでいっぱいになった
「泣けよ…泣き顔なんて見たくねーけど」
「……っ!!」
なんてコトを言ってくれちゃうんだろ、このオトコは…
潰されそうに苦しい胸が破裂しそうになる
優しい声に彼の顔を見上げて出会う包み込むような温かい眼差しに、あっという間に涙が込み上げて彼の綺麗な顔の輪郭が歪んだ
「…ゴメン………傘…ありがと」
「っ…」
"傘…ありがと"
その決定打と言わんばかりの一言に、アタシの瞳からはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる
「ふぇ…っ…」
さっきもたくさん泣いたばかりなのに、なぜか涙が止まらない
…優しく抱く彼の体温があまりにも温かくてらアタシはそのまましばらく声をあげて泣いていた…