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ネムリヒメ.
第19章 記憶の中の摩天楼.
メインのカジノエリアはここのすぐ下のフロアからになってるらしいんだけど、
今いるこの場所は真下にカジノがあるなんて微塵も感じさせない気品漂う落ち着いた空間だった
ピアノの生演奏とジャズシンガーの歌声が響き、ずっと見ていたくなる極上の夜景に囲まれたここはまさに大人の社交場
そして、肩を並べた"カクテルの王様"と"カクテルの女王"で今日3度目の乾杯をする
透明感のある琥珀色の綺麗なカクテルに飾られた真っ赤なマラスキーノ・チェリー
オリーブが添えられたドライマティーニは渚くんに譲って、さくらんぼと甘い香りが誘うカクテルグラスに口をつけた
マンハッタンの甘さとほろ苦さを感じながら摩天楼からの眺めに目を細める
と、
あれ……
なんとなくだけど変な違和感を覚える
「どうした?」
「なんか変かも…」
「は…?」
「アタシ…ここにきたことある…よね」
外を見たままポツリと呟きを溢すと、視線を向かいに座る彼へとまっすぐ向ける
「渚くんと…きた?」
それはきっとあの日…
しかし、
「いや、オレは今日初めて連れてきたけど…」
「ぇ………」
「誰かときたか?」
「っ………!!」
その瞬間、視界がぐわっとぼやけて渚くんの姿と誰かの姿が重なるのが見えた
─誰…
「んっ………」
けれど、ツキンと頭が痛んでこめかみを押さえると、浮かんだビジョンがぼんやりと完成しないまま崩れかかる
─待って…
瞑った瞳の奥でその影を追いかけようとする
が、痛みと引き換えにあっけなくその姿は消えてしまった