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ネムリヒメ.
第19章 記憶の中の摩天楼.
「…はや……千隼!?」
「っ…!?」
あ……
名前を呼ぶ声に瞼を押し上げると、こめかみを押さえたまま俯いたアタシを心配そうに見つめる渚くんの姿があってハッとした
「…平気か!?」
「うん、ゴメン、大丈夫」
もう治まった頭の痛みを尚も振り払うように首を横に振る
「急にどうした」
「あの日、アタシ…」
渚くんのことしか覚えてないのに、
あの日アタシは
彼じゃない誰かと
ここで…
今日と変わらないこの同じ景色を見ている
誰かと……
「誰だろう…」
「は?」
「アタシ、誰かとここに来た気がする!」
「…誰かって」
「それがっ………
誰かが過ったんだけど、途中でわからなくなっちゃってっ…はぁ、もぅ」
せっかくなにか思い出せるようなカンジだったのにな…
残念な自分自身に募るもどかしさ
落胆してがっくり落ちる肩に、頭を抱えて静かに身悶えてしまう
すると、
「そう焦るなって」
「う…」
項垂れる頭にポンと降ってきた温かい手
長い指で眉間突かれ、眉を寄せたまま顔をあげる
「ここ…皺になるから、そのくらいにしとけ」
「っ…!?」
なにをっ!!
…って一瞬思ったけんだけど
「今のお前に焦りとプレッシャーは良くないから」
あ…そうだよね
「うん…」
「わかったなら、こっちこいよ」
脚を組み直して、自分の座るソファーの隣をトントンとする彼
素直に隣へ行くと、カクテルピンに刺さったチェリーを口のなかに放り込まれた
まだしっかりと甘さの残る果実にむせそうになるアタシを見て、渚くんはフッと口元を緩めて柔らかく目を細める
不意に見せられた果実よりも甘い笑顔に胸の音が1オクターブほど上昇する
─でも知らなかった…
「…みつけたよ、可愛い仔猫チャン♪」
そう呟きながら、こんなアタシたちのやりとりを遠くから静かに見つめる目が
あったことに…