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ネムリヒメ.
第20章  白と黒の影.




………………



「っ千隼、悪い…」


これで何度目だろうか…

溜め息混じりにそう溢す彼の言葉に首を横に振る


さっきからひっきりなしに着信を告げる渚くんの携帯電話

初めは電話の度に席を外していた彼も、さすがに面倒になったらしい

隣に座るアタシの肩を抱いたまま電話を耳に当てていた


「I understand where you are coming from but…
(貴方がそうおっしゃる理由は分かりますが…

 What will you give?」
 幾ら出すおつもりですか?)


しかし、アタシにはそんなコトはどうでもよかった

問題はこの状況にあるのだ


さっきから耳元で囁かれる流暢な英語

普段聞くことのない、よそ行きの声色

こんなにも近くで見たことのない姿で美声を響かされ、隣にいるだけなのに変に意識しない方がおかしい状態であって…

さっきから非常に心臓がうるさいんです、アタシ

しかも彼は先方に少々イライラし始めたらしく…


「ん……ッ…!!」


ピクンッ……


「…It's interesting that you'd say that.」
(…興味深いことをおっしゃいますね)


白けた表情でそんな言葉を発しながら、長い指先でアタシの耳をくすぐり始める

さわさわと触れるか触れないかの微妙な距離を保ったまま耳の縁をなぞり、飾られたパールのピアスを転がすように弄んでいるのだ



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