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ネムリヒメ.
第24章 Get back.
靴が気持ち悪いとかどうでもいい
冷たいシャツが肌に貼り付こうが、髪から落ちた滴が視界を遮ろうが構わない
途中、持っていたジャケットをどこかへ投げ捨てた
皺になろうが、どこへ置いたのかすら覚えていない
気が付けば、
「郁ッ…!!」
向かった部屋の一角でそう声を張り上げていた
百万の夜景を見下ろす全面ガラス張りの部屋のコーナーにはベッドがある
そこにオトコがいた
自分が口にした名のオトコが…
願うならばいてほしくないオトコがそこにいた
すると、距離をとって立ち止まった雅に向かって、視線をよこしたオトコがほくそ笑む
"なんだ…またお前か"
雅の目にはそう言ったように見えた
オトコはベッドの上で服を身につけていなかった
忘れていた痛みが雅の肋に走った
…刹那、耳に届いたか細い声に雅はハッとする
苦しそうな千隼の声がする
泣いているような、助けを求めているようにも聞こえる
その声にオトコの目が再びベッドの上へと向けられ、妖しげな表情で何かを囁く
それはそこに彼女がいることを意味づけていた
咄嗟に動き出す雅の足…
まだ彼女の姿を捉えることはできていない
すぐそこなのにベッドが遠い
すぐのはずなのにまだ辿り着かない
そんな雅に再び顔をあげたオトコが一瞬笑った
途端、見えないままの千隼の声が大きくなる